機械構造物の振動は騒音や部品寿命の低下といった問題を招くため、生じた振動を低減・抑制するための技術(振動制御)が自動車、建築、精密機器分野など様々な分野で必要とされています。
たとえば、原子間力顕微鏡の位置決め装置に使われている圧電素子*1を適切に制御すると、ぶれがなく高速に顕微鏡画像を得ることができます。また、ハイブリッドカー用モータを制御することで、振動を低減しながらエネルギーも回生することができ、車の燃費向上と振動騒音問題の解決を同時に行うことが期待できます。
*1圧電素子:力を加えることで電圧を発生させる、電圧を加えることで変形させることができる、センサとしてもアクチュエータとしても使用できる素子。マイクロ分野・音響・自動車・印刷など様々な分野で応用されています。
外部電気回路を接続した圧電素子を用いて、振動を電気的エネルギーに変換し、消散もしくは回生・充電することにより、センサレスに振動を小さくする手法(シャント制振,shunt damping)があります(図(a))。
我々の研究室では、圧電シャント制振の数理モデリング、パラメータ推定[高木ほか、2012]や、制御系の解析と設計(特に、動吸振器の設計法に基づいた厳密最適値[Ikegame e et al., 2019])ならびに仮想シャント回路の電子回路実装(図(b))[一藁ほか、201x]などについて研究しています。
ボイスコイルモータ*2などの電磁力を利用するモータは、アクチュエータ(電気エネルギーを機械エネルギーに変換)としても発電機(機械エネルギーを電気エネルギーに変換)としても利用できます。圧電シャント制振と同様に、単一の電磁アクチュエータに外部電気回路(シャント回路)を取り付けるだけで、センサレスに振動制御しながらエネルギー回生・充電も行えます。
我々の研究室ではこれまでに、ボイスコイルモータにソフトウェア上で仮想的なシャント回路を取り付けて、負の抵抗値を持たせることで大きな制振効果を得られることを実証しました。また、電磁シャントのインピーダンスが分布定数系と呼ばれる特性を示し位相が90度に漸近しない場合があるのですが、そのモデル化とパラメータ推定方法を提案しています[Ikegame eat al., 2017]。
*2ボイスコイルモータ:コイルと永久磁石によって構成される、回転方向ではなく往復方向に運動するモータ。
振動制御において、もっとも単純な制御法のひとつに、仮想的なダンパ(変位の微分である速度に比例して粘性力が発生する機械要素)を実現して振動を抑える速度フィードバック法があります。近年、変位の積分を利用するIntegral Resonant Control(IRC) という制御手法が提案されました。IRCは、複数の共振の応答を低減でき、さらに速度フィードバックと比較して制御対象の質量や剛性などに多少の変化があっても安定性や性能が劣化しにくいと期待されています。
我々の研究室では、圧電バイモルフ梁の電気的特性によってIRCが不安定化しないことをモデルから明らかにしました[Taira eat al., 2022]。また、適用が難しい剛体モードをもつ系にIRCを応用する方法[Yoshida eat al., 2023]に関して研究を行っています。