釣糸人工筋アクチュエータは熱に応答する高分子アクチュエータの一つであり,R. Baughman教授(テキサス大学ダラス校)らの研究グループによって近年開発されました[Haines et al., Science, (2014)].他の高分子アクチュエータと比較して高い収縮率(後述のTCPFの場合10~50%)と大きな発生力をもち,またナイロン釣り糸などの入手が容易な材料で簡単に作ることができるため注目を集めています.大きく分けて,回転運動する線状加撚高分子繊維(Straight Twisted Polymer Fiber:STPF)アクチュエータと,さらに捻りを加えてコイル状にした撚糸を用いて収縮運動を実現するコイル状加撚高分子繊維(Twisted and Coiled Polymer Fiber:TCPF)アクチュエータがあります.
応用例として,人工筋肉で動くソフトロボットや,ロボットハンド,パワーアシスト装具,静音モータ,温度調整装置などが期待されています。
我々の研究室では、釣糸人工筋の高性能化のための製造方法、釣糸人工筋の動作原理の解明に向けた物理モデルの構築、物理モデルに基づいた制御法の開発,ロボットハンドや運動補助装具などのロボット応用について研究を進めています.
釣糸人工筋の高性能化に関して,TCPFアクチュエータの収縮量を最大化するべく,作製条件と性能の関係を調べ,収縮性能がコイリング時の荷重で決定されることを明らかにしています[岡本ほか, 2022].
物理モデルの構築に関して,共同研究者の塩谷らによって新しい物理モデルが提案されており,ナイロンなどの高分子繊維の熱収縮は従来考えられていたエントロピー弾性が起源ではなく非晶部の熱膨張によって説明できることを明らかにしています[Kimura et al., 2021].また,TPFアクチュエータを加熱したときの発生トルクと発生張力を説明しうるモデルを提案し,実験結果を説明できることを示しました[Takagi et al., 2021].ほかにも,温度に依存したヒステリシス,すなわち形状記憶効果があることを見出し,その特性について調査を進めています[Tanizaki et al., 2019].今後,釣糸人工筋の動作を統一的に説明できる数理モデルの構築を目指しています.
釣糸人工筋の制御に関して,簡単なモデルベーストPID制御によって,精度良く位置制御が可能であることを示しています[Arakawa et al., 2016].また,釣糸人工筋の弱点である動作速度の向上を目指して,加熱と冷却を連続的に切り替えて制御する方法を提案しています[Takagi et al., 2017].
ロボット応用に関して、釣糸人工筋を使って手指のパワーアシストを行うための運動補助装具について提案をしています[赤松ほか,2022].釣糸人工筋は安価で柔軟なアクチュエータであるため,軽く,ディスポーザルなパワーアシスト装具が期待できます.また,釣糸人工筋の高速駆動に関する基礎検討についても進めています[伊藤ほか,2022].